【欧州サッカーPRESS記事 西川結城】
現在、藤田俊哉はオランダ2部のVVVでコーチを務めながら、帰国した際にはテレビで日本代表戦などを解説する仕事をしている。
ある日の夕方、彼はドイツのゲルゼンキルヘンに向かっていた。チャンピオンズリーグ(以下CL)ラウンド16、シャルケ対レアル・マドリーを観戦するためだった。
藤田は今、欧州でサッカーという競技を多角的に捉えながら、多忙な日々を送っている。
「レアルはやっぱりレアルだった。まず、当然個人の力は高い。具体的に言えば、彼らはみんな“時間”を作ることができる。一人一人の選手が個人で試合のリズムや展開を組み立てていける。そのあたりはさすが。
ポゼッションなのか、カウンターなのかという二元論も、あのレベルではもうあまり関係ない。レアルは高速カウンターが武器と言われるけど、シャルケ戦ではしっかりパスをつなぐところはつないだ。さあ、どう説明する?(笑)
今何をしなければならないのか、どんなプレーをすべきなのか、どれぐらい力を出すべきなのか。即時、即時の判断に間違いが少ないところが強い。言い方は悪いけど、レアルは決して90分間常にキビキビとプレーしていたわけではなかった。力の入れどころや抜きどころも、厳しい連戦を戦う中で体得していったものだと思う。正直、レアルとシャルケにはまだまだ結構なレベル差があった」
「注目しているのは、選手の駆け引き。オフザボールの選手と、そのマークに付いた選手を見ていて、どのタイミングで、またどの選手が動き出すかというのを自分も予測しながらね。あとはセオリー通りの動きをするのか、イレギュラーな動きを入れてくるのか。そのあたりは、レベルの高い試合では特にチェックしている。
欧州のハイレベルな試合は、少なくとも肝心な場面では、ピッチのどこにボールがあっても全員がしっかり試合に関与している。みんな自分のポジションの役割に対する理解度が高い。本当にサッカーをよく知っている。
でもレベルが低くなればなるほど、関与していない選手がすごく目立つ。例えば遠い位置にいる選手が少しでも動けば一気に形勢が変わるような場面でも、全然関与しないとか。正直、VVVがいるオランダ2部のレベルでは、まだそういうところは見て取れる。逆にCLに出てくるようなチームにはそれが少ない」
日本とオランダ。サッカー文化も指導理念も、当然異なる。オランダで実際に行なわれている指導について、藤田は新鮮な部分も、そうでない部分もあるという。純粋に指導面だけを見れば、よっぽど日本のやり方の方が優れている部分もあるのだ。
「オランダ国内だと、練習のスタイルはほとんどどこも変わらないという印象。これはね、よく目を凝らして見ているんだけど、例えば試合前のウォーミングアップでも各チームほぼ同じやり方だったりする。コーチの関わり方も面白くて、日本ならGKはGKコーチが付きっきりで練習するけど、オランダではコーチが付き合わない。先発のGKと控えのGKとがボールを蹴り合っている。
あと普段の練習だと、オランダはウォーミングアップをそこまで入念にやらない。ここは日本のほうが良い部分だと思う。こっちではグラウンドを2周ぐらい走っただけで、すぐにボールを使ったメニューに入る。だから練習のテンポが速い。紅白戦もVVVは毎日はやらないし。もちろん監督によってディテールは違ってくるけど、毎日の練習のリズムはオランダ国内はどこもあまり変わらないと聞く。
戦術的にも、ほとんどのチームのシステムが4-3-3で、まだまだこの伝統的な布陣を使うクラブが多い。サイドの選手はワイドに張るし、選手の距離間も広いので、局面では個人戦になることが多い。システムをある程度固めて、その中で個人能力で勝負していくという戦い方が目立つ」
4-3-3はオランダサッカーの典型的なシステムだ。昨年、ミラノで本田圭佑に話を聞いた際にも、これにまつわる話題が出てきていた。
当時、フィリッポ・インザーギ監督のもとで4-3-3の右FWの位置に入っていた本田は、日本人がこのシステムに取り組むことの難しさを話していた。
「ミランでの4-3-3では、今まで自分が感じてきたパス回しとは、また概念の違う回し方が必要になっている。自分はどちらかというとバルサみたいなパス回しの感覚で、選手の距離を近くして、という。でも今のミランは、選手が広がって20~30mのインサイドキックでパスをつながないといけない。もう、オランダサッカーみたいな感じ。中盤のデヨング(オランダ代表)なんかはこういうサッカーに慣れているから、パスをバンバン蹴っている」
藤田は「指導法の中には、オランダより日本の方が優れている部分もある」と言うが、ただ両国の実力差で言えば、まだまだ日本が格下に位置するのは事実だ。そこには、もちろん本田がここ数年常々口にし続けてきた“個”、つまり個人能力でまだ列強国に立ち向かえないという現状が存在する。
名古屋時代の後輩で、今でも親交がある本田の見方に対して、藤田はこう語る。
「オランダ人のキックは、やっぱり日本人とは質が違う。間違いなく圧倒的な差がある。自分がこちらに来て最初に強く感じたのも、そのキックについてだった。インパクトの強さ。これは、多くの日本人も情報としては頭で理解していることだと思う。でも実際に日々触れてみると、その差は相当大きい。では、なぜ強いキックを蹴ることがサッカーでは大切なのか?
それは、選手は武器や道具をたくさん持っている方がいいに決まっているから。例えばゴルフをプレーする時に、飛距離を調節できるクラブをたくさん持っている方がいいのは当たり前。パター1本やドライバー1本でプレーできるわけがない。サッカーも同じで、強いキックも緩いキックも必要。ただサッカーは道具ではなくて、自分の足を使う。強いキックを蹴ることが出来る選手は、緩いキックもできる。でも、強いキックは誰にでも蹴ることができるわけではない。オランダ人の選手はキックのインパクトが強いから、その強弱でパスの緩急を付けられる。そこが個人能力の高さであり、彼らの大きな利点だと感じる。」