東洋経済オンライン記事
「結果が出ない」「評価されない」「下積みの我慢」――。それは誰にでも存在します。そこでどう振る舞うか、何を持ち帰れるかで半年後、1年後の結果は大きく変わってくるはずです。
ACミランのトップチームで16年間もの間、日本人ながらにメディカル・トレーナーを務め、本田圭佑をはじめとした世界のトップ選手を支えてきた遠藤友則氏は、超一流の「逆境」での過ごし方はビジネスパーソンにも参考になると言います。
では、激しいプレッシャーの中、「結果がすべて」の世界で生き残る選手は、何が違うのか。そこには、日本人が陥りがちな「間違った努力論」がありました――。
筆者の在籍中、ミランは2度のスクデッド獲得(リーグ優勝)、チャンピオンズリーグ制覇を2回、準優勝も1回。トヨタカップの優勝も1回とまさに黄金期を迎えていました。
メディカル・トレーナーの仕事はひと言でいえば、選手が100%の力で試合に臨めるようコンディションを整えること。試合前後のケアはもちろんですし、ケガをしてしまった選手のリハビリも行います。
こうした仕事を通じて筆者は、ミランの「レジェンド」と呼ばれる選手たちを、内部から観察し続けてきました。今は監督を務めているインザーギ、「ミスターミラン」と呼ばれたマルディーニ、黄金期を支えたガットゥーゾ、ピルロ、セードルフ、カフー、カカ、ロナウジーニョ、ロナウド。イングランドのスター、ベッカム。さらにはシェフチェンコ、イブラヒモビッチ……。
きら星のごとき、名だたる選手を間近に見ながら、陰日向にサポートをしてきたわけですが、たとえ一流の選手であっても結果が出ないときは当然あります。そんな状況の中でも、結果を出し続け、歴史に名を残す選手がいる一方、苦境に陥るとそのまま這い上がれずに終わってしまう選手もいます。
才能の差ではなく、「考え方」の差
結果を残す選手と、消えてしまう選手。違いは何だったのでしょうか。逆境から這い上がる選手の資質とは何なのでしょうか?強靭なメンタル?恵まれた才能? 運を引き寄せる力?
筆者は、両者に才能の「差」はなかったのではないかと見ています。もし違いがあるとするならば、それは「考え方」。逆境と言われていた時期をどう考え、過ごしていたかの差、それだけだったと思うのです。
ミランで見てきた超一流たちの思考は、とてもシンプルです。
「焦らず。毎日コツコツ」
大股で1歩進むと、次の2歩目は苦しくなります。
2歩目を安定して出すためには、半歩ずつ確実に出したほうがいい。大股で次の1歩が踏み出せなくなるくらいなら、半歩を刻んで、やり続けるほうがいい。そのほうがはるか先にまで行くことができます。それを一流は理解しています。
「たった5分の価値」に気づけるか
ミラン時代に2度の得点王に輝き、2003-2004年シーズンのバロンドール(ヨーロッパ年間最優秀選手)にも選出されたアンドリー・シェフチェンコも、年間を通じて練習の前後に
「遠藤! ストレッチをやるぞー!」
と言って、必ず筆者を呼びに来ました。たかがストレッチですが、毎回の練習、試合の前後に5分間のストレッチを欠かさずにやり通した選手は、シェフチェンコのほかには、後にも先にもいませんでした。
誰にでもできる簡単なストレッチ
いくらでも続きそうなものですが、きちんと続けられる選手はいません。それこそ、シェフチェンコが超一流であるゆえんなのかもしれません。
彼らが続けることができたのは、「毎日、たった5分のストレッチを続けることの意義」。つまり「なぜやるのか」を理解していたからです。
実際に、シェフチェンコは、身体のバランスが崩れたときにどうすればいいかを理解し、解決策として「練習の前後のストレッチが自分には重要である」というところまでわかったうえで、単純なストレッチを続けていました
。
「コツコツ」こそが、どんな試合でもベストパフォーマンスを出す秘訣だと理解していたのです。
すぐに超一流の領域にたどり着くことは難しくても、「毎日、たった5分のストレッチを続ける」という価値に気づくことが、一流に近づく1歩なのではないでしょうか。
東洋経済オンライン 『一流の逆境力
ACミラン・トレーナーが教える「考える」習慣』
(遠藤
友則著、SBクリエイティブ)